中小企業における安全運転管理者制度の重要性
先日報じられた交通事故の捜査で、運送会社が必要な安全運転管理者を選任していなかったことが発覚し、書類送検されたという事例が話題になりましたね。
これは単なる届け出漏れではなく、交通事故を未然に防ぐべき安全運転管理制度そのものが機能していなかったことを示していると考えられます。
この記事では、中小企業が安全運転管理者制度を正しく理解し、実効性ある安全運転対策を実践するために必要なポイントを整理したいと思います。
目次
1・ 安全運転管理者制度とは
安全運転管理者制度は、道路交通法に基づく仕組みで、一定台数以上の車両を使う企業・事業所に対し、交通事故防止のための管理者を選任し、公安委員会に届け出ることを義務付けるものです。
選任した管理者には、運転者に対する安全教育や安全運転管理に必要な業務を担わせることが求められています。
選任義務が発生する台数は、乗車定員11人以上の車両1台以上、またはその他の自動車5台以上と定められており、規定に達した場合には副安全運転管理者も選任しなくてはなりません。
さらに、選任後は15日以内に公安委員会への届け出が義務とされ、これを怠ると法令違反として罰金が科される可能性もあります。
2・ 安全運転管理者の役割と業務内容
安全運転管理者には、本来以下のような実務的な役割と責務があります。
(1)運転者の安全確保と適性管理
管理者は、運転者の運転適性、法令遵守状況などを把握し、必要な措置を講じる義務があります。
これには日々の点呼や健康状態の確認も含まれますので、よく理解しておく必要があります。
(2)安全運転教育の実施
運転者に対して交通安全教育や法令遵守のための教育を行い、事故発生リスクを下げる取り組みが求められます。
教育は公安委員会が定める指針に基づき実施されなければなりません。
(3)運行計画・安全計画の策定
長距離や夜間運転の計画、休憩や交代要員の配置、異常気象・道路状況への対応など、安全に運行するための計画作成と管理も管理者の重要な仕事です。
(4)アルコールチェックなどの安全確認
法改正により、点呼時に運転者の酒気帯びの有無をアルコール検知器で確認することが義務化されました(2023年12月施行)。管理者は検知器を常備し、検査・記録・保存を行う必要があります。
3・中小企業で制度が機能しない理由
現場を見渡すと、多くの中小企業で安全運転管理者制度が形式的・形骸化しやすい傾向があります。
私自身、運送業でドライバーとして約6年間働いてきましたが、現場ドライバーは荷物の積み込みから何から何まで、とにかく時間に追われているため、とりあえずチェックしたことにしてしまうといった傾向が顕著でした。
(1)管理者に実務負担が集中
安全運転管理者の業務は幅広く、日々の点呼、教育、書類管理等の負担が大きいです。
それが本来の事故防止策の実行につながらず、単なる届け出だけにとどまってしまうケースが多いことと思います。
形骸化せずに自己の防止に役立つものでなければならないと感じます。
(2)アルコールチェックや点呼が定着していない
制度としてはアルコールチェックが義務となったにもかかわらず、検知器を常備していない、またはチェック記録が不十分という実務的な抜けが散見されます。
(3)教育が形だけになっている
交通安全教育が定期的に行われず、最新の法令や事故防止策のアップデートがなされないままになっていると、制度は実効性を失うことになります。
(4)実効性を高めるための取り組み
中小企業が安全運転管理制度を形だけでなく「機能させる」ための具体策として、次のポイントが有効だと考えます。
✔ 管理者の業務時間と権限を明確にする
安全運転管理者に十分な時間と権限を与え、日々の点検・教育・運行計画の立案に専念できる体制を整えましょう。
✔ アルコール検知器・点呼のデジタル化
アルコールチェックは必須であり、その記録をシステム化することで抜け漏れを防ぐだけでなく、後からの監査にも耐える品質の高い管理が可能になります。
✔ 事故防止KPIと評価制度の導入
事故件数、点呼実施率、教育参加率などの指標を設定し、定期的な評価と改善を行う文化を育てるのもいいでしょう。
4・まとめ:事故防止のための制度運用と意識改革
安全運転管理者制度は「届け出だけ」で完結するものではありません。
交通事故の防止や安全運転の徹底という制度の本質的な目的を実現することこそが重要です。
制度が機能していなかった事例を機に、中小企業は制度の義務だけでなく、実効性ある安全運転管理の仕組みづくりに取り組む必要があることは間違いありません。

